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広島高等裁判所岡山支部 昭和36年(ラ)13号 決定 1961年7月14日

抗告人 片山弘文

主文

原審判を取り消す

相手方の本件申立を却下する

理由

本件抗告の要旨は

抗告人は、原告青山登志、被告谷元清治、同英機間の津山簡易裁判所昭和三二年(ハ)第六号所有権移転登記請求事件において、右青山の申請に基く証人として出廷のうえ証言したが、その際同人の利益を図つて偽証をなした事実はない。すなわち、右谷元等両名共有の山林三筆合計五反五畝二八歩の売買に際し、青山登志は、仲介人植木準一からの交渉により、右山林を一坪金四十円の割合による代金で買い受ける旨の話をすすめ、昭和三十一年十二月六日には右谷元等両名の後見人である相手方の案内により前記山林を視察し、隣接山林所有者立会のうえ、その境界を確認した。そして、相手方は同三十二年一月十二日後見監督人たる抗告人に対し、右山林を青山登志に対し金六万六千円で売り渡すにつき同意を求め、かつ、植木準一からも電話で右売買契約の成立を通知してきたのみならず、青山登志が右山林附近の状況を知悉していたこと及び既にその代金が決定されていた事実から推察し、抗告人は、前記の境界確認以前に右山林売買契約が成立していたものと考え、相手方の申し出た売買契約につき同意を与えた。その後前記訴訟において、抗告人は、青山登志の申請に基く証人として出廷した際、右事実を記憶に従つて証言したのであるから、右供述をもつて同人の利益のためになした偽証と目さるべき筋合いのものではない。よつて、原審判を取り消し、更に相当な裁判を求めるため、本件抗告に及んだ。

というにある。

よつて先ず、相手方の本件後見監督人解任申立の適否につき審按するに、本件は、後見人たる相手方が後見監督人たる抗告人の解任を申し立てたものであるが、後見監督人の解任については、民法第八百五十二条により後見人の解任に関する同法第八百四十五条の規定が準用されるところ、後見人は同条によつて後見監督人の解任を申請し得る者に該当しないものと解するのが相当であるから、相手方は、後見監督人たる抗告人の解任を請求し得る権限を有しないものと解せざるを得ない。なぜならば、後見人は、被後見人が未成年者である場合その身上に関し親権を行う者と同様の権利義務を有し、被後見人が禁治産者である場合その療養看護に努めなければならないのみならず、その財産を管理し、これに関する法律行為について被後見人を代表する等、被後見人の身上並びに財産上極めて広汎な権利義務を有するのであるから、後見人に不正な行為等後見の任務に適しない事由ある場合、後見監督人は監督者としての職責を全うする必要上、後見人の解任を請求する権限を認むべきは当然であるが、その監督に服すべき後見人もまた後見監督人の解任請求権を有するものと解するにおいては、事柄の性質上後見監督人の監督的機能を著しく減殺するに至るであろうし、惹いては、被後見人の保護を全うする所以ではないからである。

もつとも、後見監督人がその任務に適するかどうかは裁判所が自由に認定し得るところであつて請求者の判断に左右される訳のものではなく、また日頃直接後見監督人と交渉を有する後見人はその解任事由を知る機会が最も多く与えられているところから、後見人の後見監督人解任請求権を肯定すべきであるとの見解も考えられるが、裁判所が後見監督人解任事由を認定するにつき請求者の判断に動かされるものでないことは当然のことであるから、裁判所殊に家庭裁判所の後見的機能を考慮に入れても、これをもつて後見人の右解任請求権を認める積極的な根拠とすることはできず、また後見人が後見監督人解任の事由を最も多く知り得る機会が与えられているというだけの理由でこれに解任請求権を認めるときは、、法が特に右解任請求権者を限定した趣旨を説明することはできないのみならず、前に説示したところを勘案すると、右の如き見解には到底左袒するを得ない。

しかして、相手方が被後見人の親族であることについては、何等の主張も資料も存しないから、後見人たる相手方の後見監督人の解任を求める本件申立は、不適法として却下を免れない。

しからば、これを看過してなした原審判は失当であるからこれを取り消し、相手方の本件申立を却下すべきものである。よつて、家事審判規則第十九条を適用し、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 柴原八一 裁判官 柚木淳 裁判官 長久保武)

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